5月14日日曜日、毎年楽しみにしている前進座国立劇場公演を鑑賞した。演題は「裏長屋騒動記」。山田洋次監督が初の歌舞伎脚本を手がけ、江戸の長屋を舞台に落語2つを題材として作品にしたものである。
近年盛んになった新作歌舞伎は、行き過ぎると現代劇と変わらなくなるのではとの懸念もあるが、この作品は、歌舞伎ならではの魅力に監督の本物の笑いを融合させたすばらしい舞台だった。
登場人物たちは、人としてのプライドを保ちつつ、自然体で相手の立場・気持ちを尊重していた。真面目さから漂う哀愁が何ともほほえましい山田ワールド。
多様性を排除しがちな現代だからこそ「そうだ、もっと肩の力を抜けば大事なことが見えてくるかも」と気持ちが上向きになった。同時に、見る人も心から笑わせ感動させてくれた役者・スタッフの技量の高さに、表現の自由を守っていかなくてはならないと強く思った。(F・K)